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「ウェブ進化論」の「玉石混淆(ぎょくせきこんこう:Wheat and Chaff)」的に、"石"とするか"玉"とするかはアナタ次第です。Appleネタと本で生きてます(笑)。雑記は別ブログあり。


by tacca884
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[本] ネットビジネスを阻むラスボス:著作権という魔物

著作権という魔物 /岩戸佐智夫

※この記事のタイトルの「ラスボス」は、ゲームなどの最後の敵、ラストボスの略。

いろいろ最近のネット関連の書物を読んでいると、日本の問題として何かと出てくるのがこの著作権の話。ということで、週刊アスキーで連載されていたものをまとめたこの本を読んでみた。

まあ、元が連載記事なので章の分け方で前編・後編とあるのがちょっと違和感。あと、本にまとめる際に見逃したのか、後の連載で書くとかいう文があったりと、ちょっと詰めの甘さを感じる。

基本は、著作権問題に直面した人、著作権に深く関わっている業界の人に著者が会って話をしたインタビューをベースにしている。この本が面白いのは、著作権に関して提訴される側と、提訴した側両方からちゃんと書かれていること。ただ、著者は基本的には現行の日本の著作権法には不満があり、日本が世界に通用するには変えていかなければいけないという意見を持っている方である。よって、著作権法に従って守られている方へのインタビューの際には若干の苛つきをおぼえながらやっているのだが、それが正直に描かれているのが良い。とてもフェアだ。

著作権について意外な印象を受けたのは、著作権法が発生した問題に対してどういう判断基準でどっちが、何が正しいかを決めている法律では無いということ。単なる権利法であり、当事者で後は決めてね(本のインタビューの中では乱暴に「殴り合って決めろ」とあるが)というものであり、システムとしては不十分なものなのだそうだ。そういう基準だと、判断にもブレは出るし、モノは言いようになるだろうから、様々な著作権の問題は複雑に感じてしまうのだろうと思う。

これを読んで思うのは、テレビ局や映画会社、音楽会社といった著作物を扱う大きな勢力が、努力を怠っているように見える。確かに彼らの意見として、複製されまくってしまうと自分たちの食うあては無くなるし、音楽で言えば著作者の創作意欲に影響もあるのはよくわかるが。ただ、結局はビジネスの話であり、世界の流れに逆らう事は、そのビジネスチャンスを逃すことになる。主流となるビジネスモデルは変化していくのが普通だ。

特にテレビ業界は日本だけが二次使用がしにくい。そうなると世界のテレビ業界の流れからは置いてけぼりをくらうだろう。タイムワーナーやCBSのように、敵対意識はありつつも、YouTubeと提携してビジネスをしていく。したたかではあるが、ビジネスの世界ではしたたかでなければいけない。利権にしがみついているだけではその時は良いだろうが、いずれそれでは食べていけなくなる日は来るはずである。

本当に今の日本のテレビ番組はつまらない。見る気もしない。それは著作権というもので守られた聖域の中で、自分たちの利益だけ見ているから、本来のお客様である視聴者を無視してコンテンツを作るようになってしまったのだろう。そのまま行けば彼らにとっては良かったのだろうが、インターネットの普及による世界的な通信網の確立や、YouTubeなどの再配信可能で余計なものを飛ばした動画が観られるビジネスモデルが出てくると、自分たちのコンテンツが地域を越えてタイムシフトされて観られる事で、リアルタイムで流れている新しい番組を見てもらえなくなる。そうすると観ても無い番組に広告料を企業が出すわけが無いから、利益を守るため著作権という剣を出して脅しをかけるのだろう。

この本の最後にある、「コンテンツの社会的機能はみんなのネタ元」という表現は面白く感じた。「昨日、あの番組見た?」という会話は僕くらいの歳(30代前半)の人間が小学生時代には学校で先ず発していた言葉ではないだろうか。コミュニケーションの道具として"みんなが知っている"コンテンツは使われる。それは今もそうであり、つまらなくても見続けている人は多い。ただ、最近ではインターネットの発達により生まれたサービスとなるとその辺はテレビから置き換えられるものになるのではないかと思う。更に言えば、物理的に身近の人間とのコミュニケーションを強制されない世界にもなっている。SNSによるコミュニティ、ブログなどが代表だろう。ニッチでロングテールな分野でも世界を探せば自分と同じ好きな趣味の人と会え、繋がりをインターネットで作れる。その時の"みんなのネタ元"コンテンツはインターネットから生まれたYouTubeなどに置かれ、コンテンツを共有することになるのは容易に想像できる。


時代の流れを現実として受け止め、著作権で守られていた業界は再度努力をしてビジネスしていくべきでは無いか。この本にある「魔物」という言葉は、著作権そのものではなく、実はそれで利己的な利益を得ている大きな業界の事なのでは無いかと思う。
by tacca884 | 2008-05-15 23:42 |