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「ウェブ進化論」の「玉石混淆(ぎょくせきこんこう:Wheat and Chaff)」的に、"石"とするか"玉"とするかはアナタ次第です。Appleネタと本で生きてます(笑)。雑記は別ブログあり。


by tacca884
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[本] 雲に隠された安価な知的創造:クラウドの衝撃

クラウドの衝撃――IT史上最大の創造的破壊が始まった/城田真琴

クラウドコンピューティング・・・最近よく聞く言葉だが、昔にいうグリッドコンピューティングと何が異なるのだろうと疑問には思っていた。どうやらグリッドコンピューティングだと様々な管理状態にある異業種のコンピュータリソースを集めて一つの大きなコンピュータと見せているものであり、クラウドコンピューティングはこのグリッドコンピューティングよりもちゃんと集中管理状態にあり、構成するコンピュータも均一化されているものである。グリッドコンピューティングから複雑性を排除し、簡略化したものがクラウドコンピューティングと見なせるようだ。

クラウドコンピューティングには、ソフトウェア機能を提供するSaaS(Software as a Service)、アプリケーション実行環境を提供するPaaS(Platform as a Service)、HDDやCPU性能などハードウェアを提供するHaaS(Hardware as a Service)というものがある。SaaSの代表はGmail、PaaSの代表としてはGoogle App Engine、HaaSだとAmazonの仮想サーバレンタルサービスEC2などとなる。

Googleのクラウドコンピューティングの戦略は非常に面白い。Googleとしてはクラウドコンピューティングにてサービスを提供することで、ユーザに長い時間インターネットの中にいるようにしてもらい、Googleの収入源である広告の閲覧回数を増やして利益に繋げるというものである。何気なくGmailやGoogle Docsなどを使ってて、しかも無料でそれを使っていることにGoogleには得があるのかなと思うところではあるが、こんな裏の話があったとは。さすがGoogle、普通の発想ではない非常に想像力を持った戦略である。また、学生へのアプローチもGoogleはしている。無料で学生時代からGoogle Appを使ってもらうことで将来的に学生が社会人になってもビジネスの中で継続してGoogleのサービスを使ってもらおうという狙いがあったりと。しかもそれに加え、PaaSのようなプラットフォームサービスを提供して優秀なアプリケーション開発者を囲い込んだり、そのサービスを使って別のサービスを始めた優秀なベンチャー企業の買収も考えていたりする。恐るべしGoogle。クラウドコンピューティングのサービスだけでここまで考えられるとは・・・。

クラウドコンピューティングのサービスは何でもかんでも使って良いわけではなく、コストとコントロールのバランスが大事である。クラウドコンピューティングのサービスを使えば安価に早く情報システムや運用管理が構築できるが、その細かいところはサービスプロバイダの手にあるためコントロールは利かない。また多少なりともサービスプロバイダ側の障害もあったりする。しかし中小企業や個人がコストをかけず、素早いビジネスの立ち上げをしたければそれらの問題に目をつぶっても利点が多くある。

また、クラウドコンピューティングの問題としてはデータの所在が抽象化されたコンピュータにあるためどこにあるかはわからない。そのため国によってはデータの保管場所について国内でなければならない、など規制もあり法に触れる可能性もある。しかし、この抽象化がクラウドコンピューティングの利点であり、使う側のユーザにしてみれば欲しいサービスさえ提供されていればその構成や所在はなんら問題にはならない。

空のように世界中を繋いでいるインターネットに、ふわふわ浮かぶ雲のようなサービス。つかみ所がなさそうだけど、その素晴らしさを知ってしまえばきっと空を飛ぶかのごとくビジネスが急速に成長していく・・・そんな世の中になって来ていると言える。

クラウドの衝撃――IT史上最大の創造的破壊が始まった
クラウドの衝撃――IT史上最大の創造的破壊が始まった




【More:メモ書き】
・「クラウドコンピューティング」とは拡張性に優れ、抽象化された巨大なITリソースを、インターネットを通じてサービスとして提供するというコンピュータの形態
・グリッドコンピューティング。ネットワークに繋がっている様々な組織が管理している異業種のコンピュータリソースをまとめて一つの大きなコンピュータと見なし大規模な科学計算処理を分散処理させることを主眼としている
・クラウドコンピューティングの場合にはサービスプロバイダによって集中管理されており、クラウドを構成するコンピュータも均一化されている。技術標準もなく、管理方法、管理技術はプロバイダ各社に一任されている
・グリッドコンピューティングの複雑性を極力排除し、より簡略化したものがクラウドコンピューティング
・PaaS(Platform as a Service)。プラットフォームをネットワークサービスとして公開してユーザ独自のアプリケーションの実行プラットフォームとして利用してもらうもの
・真のクラウドコンピューティングとは、コンセントにプラグを差し込むのと同じくらい簡単に、インターネットに接続してITリソースが利用できること
・クラウドコンピューティングの環境は、汎用サーバが数万や数十万接続されて構築されている。性能が足りない場合にはサーバを足せば性能がアップする(スケールアウト構成)
・クラウドコンピューティングのプロバイダがオープンソースを好んで利用する理由。一つは開発者のスキル。オープンソースがWebの中では主流。もう一つはソフトウェア・コストをゼロにできる
・エラー忘却型コンピューティング。エラーが起きても無かったことにして動作を継続する。これによりプログラムを止めたりはせず、可用性を重視する
・大学から種をまくグーグル。グーグルアップを学生の時代から使ってもらい、将来的に社会人になったときに継続して利用してもらうことを狙っている
・グーグルがクラウドコンピューティングに参入する理由は、Web上の滞在時間を延ばすことが目的。延ばせば本業の広告の閲覧回数が増えて収益に繋がる
・グーグルがプラットフォームサービスを提供する狙いは優秀なアプリケーション開発者の囲い込み、優良なベンチャー企業の買収
・米ニューヨークタイムズ。アマゾンのサービスを使って4テラバイトの記事画像を一日でPDF化。当初のけいかくでは14年だった
・セールスフォース・ドットコム
・マイクロソフトのクラウドコンピューティング時代での戦略転換。重要なのはデータセンターの役割、低コストで処理を以下に高速化できるか
・Windows Azure。他のPaaSとの異なるところは今までの.NETなど開発ツール、テストツールが使えることが特徴。
・オラクルはアマゾンと協業。自分たちでHaaSを持つのは得策ではないと考えた
・自社開発、SaaS、PaaS、HaaSのどれを選ぶかは「コントロール」と「コスト」のバランス
・ジェフリー・A・ムーアの「Living on the Fault Line」。コア業務への資源集中こそが企業の競争優位性を高める方法であり、それ以外の業務(コンテキスト業務)は全てアウトソースするべきである
・コンテクスト業務で勝つためには、出来るだけ標準的なやり方で効率を優先して遂行することである。また、自分にとってコアではない業務は、他の誰かにとってはコアである
・ミッションクリティカルではない、コンテクスト業務は他とは差別化できるものではないのでSaaSなどを積極的に取り入れるとよい
・クラウドコンピューティングサービスでデータを置く場合、抽象化されているのでどこにデータがあるかは雲の中。しかしその置き場によっては法に引っかかる可能性もある。個人情報のデータの保管場所を厳しく制限している国は多い
・SLA。サービスプロバイダとサービス利用者の間で結ばれた合意されたサービスレベルの提供を保証させる法的に拘束力のある契約
・個人や中小企業など情報システムや運用管理にお金や人も欠けられない場合にはクラウドコンピューティングのもたらすコストや利便性というメリットの代わりに、時折発生する障害には目をつぶるという選択もある
・クラウドコンピューティングはネットワーク機器ベンダーにとってはチャンスであり脅威。クラウドコンピューティングサービスのプロバイダのニーズにマッチする商品を開発すればビジネスチャンスにはなるが、大量購入で価格交渉の末ディスカウントを余儀なくされる可能性はある
・マイクロソフトはデータセンターの開設場所の選定に35もの選定基準を設けて色分けされたヒートマップというものを持つ
・寒冷地にデータセンターを置けば冷却の消費電力は抑えられる
・現在のクラウドコンピューティング市場を支える破壊的イノベータたちのビジネスの共通項は利益率が限りなく1%に近いような薄利多売のビジネスモデル。
・適切なサービスレベルで必要な機能が利用できれば、その構成や所在は問題ではないだろう
by tacca884 | 2009-04-22 00:36 |